羊の頭

SFと日記と。できるだけ無意味に書きます。

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出文庫)

2015/03/13

スタージョンという作家の特徴をよく反映した作品が二作収められている。

ひとつは「雷と薔薇」。スタージョンの、引き算の幻想作家としての特徴が生きている作品。
幻想作家でも、マコーマックや京極夏彦のように絢爛で強固な幻想を打ち立てる(どうも幻想、に打ち立てる、という表現はおかしな様だが、どうしてもこう書かずにはいられない)、いわば足し算の幻想作家とは違い、スタージョンの作品では欠落によって生じる認識のずれの中に幻想が立ち現れてくる。他の収録作の「もうひとりのシーリア」ではぎりぎりまでリアリティが削がれているにもかかわらず、残ったリアリティの断面が際立ち、逆説的にこの作品を薄氷のようなリアリティの上に漂う幻想と言うべき、淡い味わいを与えている。「雷と薔薇」は、作品全体を欠落感が支配している。余りにも多くの物が(作中で述べられているよりも、多くの物が)失われたことを私たちは感じてしまう、その増幅された欠落感の中に顔面を半分失った歌姫と畸形の薔薇が強烈な印象を残していく。

「孤独の円盤」は、何よりもスタージョンらしい作品。普遍的な孤独や救いについての物語など、あまりに甘ったるいと思う人はいるかもしれないが、スーパー種族氏もどこかの浜辺で脚の悪い青年と出会えたらいいなとは思いませんか。似た様なスタージョン作品でも、もう少しケレン味があるのがよければ同文庫の『輝く断片』がオススメなのかもしれない。あるいは、もっと硬質で、リアリティのある、となってくるとカーヴァーの作品(「大聖堂」とか)を挙げることになりそうだ。


アニー・ディラードという作家の作品にすごい一節を見つけてしまったので(!)ぜひ読みたいのだが、あいにく全部絶版なのだなあ。